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生季
<田井清喜>
株式会社リーダーズドメイン 顧問
株式会社ノリタケカンパニーリミテド 非常勤顧問


「起こるべくして起こってしまった」  H17年5月1日

 国土交通省を困惑させる出来事が頻繁に起こっている。
 管制官の指示を無視して離陸滑走を始めかけた旅客機が、北海道と韓国で同じ航空会社の出発便で時を経たずして発生した。いわずと知れた重大事故直結の乗務員のミスであるが、国土交通省の忠告の舌の根も乾かぬ間に、別の航空会社が石川県小松空港で同じ過ちを引き起こしてしまった。空の不祥事の発生源は、機上乗務員から地上に移り、羽田空港では信じ難い管制ミスが発生した。工事開始前の閉鎖された滑走路に帯広発の航空機が着陸し、後続の千歳発の便までが着陸許可を受け、同じ滑走路に着陸態勢を取ったところで誤りに気が付いた管制官が、滑走路の変更を指示し別の滑走路に着陸した事故である。この管制塔には、18人1組の6チームが交代番で管制指示を行っていたが、このチーム18人の誰一人として誤りに気が付かなかった結果が招いた不祥事であった。航空機の機長は、この工事に関する滑走路の閉鎖を事前に知らされており、再三管制官に確認を採ったにも拘らず、管制官は誤った指示を二転三転出し続けたと言う。相前後して発生したこれらの出来事は、ほんの予兆であり背景であったと思わせる様なJRの事故で止めを刺してしまった。
 
 これらの事故に共通していることは、人の命と財産を預かり、管理責任を担っていると言う自覚の欠如であり、収支優先の経営と、漫然と業務を消化しているだけの姿勢が引き起こしたヒューマンエラーであったと言われても反論はできないであろう。
 最近の自動車運転マナーは、十数年前とは様変わりの様相を呈している。全く他人の事を考えないドライバーが急増して来た事にお気付きの方もいらっしゃると思うが、信号無視、路地からの飛び出し、一時停止無視などなど、今時の飼い犬、飼い猫でもやらない様な非常識な振る舞いが、路上で日常的に見られるようになってきている。なぜこのような社会現象が見られるようになってきたのか!日本人の急速な思考能力の低下が原因ではないかと懸念していたが、選ばれ、特別なトレーニングを受け、難関を突破した上述のプロ、プロ集団でさえ同じレベルの過ちを犯す最近の出来事に、この懸念が当たらずも遠からずを感じ、怖れを抱いている。日本の高度経済成長を支えてきた要因の一つに、スピードがあった事を否定するものではないが、そろそろ考え直す時期に差し掛かって来ているように思う。
 限りない新幹線のスピードへの挑戦思考は、鉄道会社の投資効率を高める為の考えであり飛行機とのスピードを競う戦略と思っているが、一度東海沖地震に見舞われれば、被るであろうその悲惨な結果は歴然としており、単に防ぎ様のない自然災害であると片付けて良い物ではない。スピードの速さと、一旦事故発生時に発生する死傷者の数は、ある速度から二乗で増加することは当然の理であり、何故、安全よりリスクの高くなる戦略をとり続けるのか、折に触れ、安全第一を唱える運輸会社の本音と建前の相違点を垣間見る思いである。
 現業を離れて5年余の年月が経ったが、先進諸国の思想とかけ離れたわが国の新幹線を避けて久しいものがある。乗客は、与えられた複数の選択肢から選べばよいが、業務となれば別問題である。乗客の安全、そして何より業務として逃れることの出来ない新幹線乗務を毎日続ける大切な社員の安全の為にも、時間をお金で買う必要のある市場は航空機に任せ、鉄道に在るべき姿を求める鉄道の顧客の為に、安全と優しさを最優先したマネジメントへのUターンを望むものである。
 
 JR西日本で起こった事故で犠牲になられた大勢の方のご冥福を心から悼み、この不幸な事故から多くを我々も共に学び採り、絶後の出来事とする事で、犠牲になられた方たちの死を無駄にすることのない様心掛け、改めて「安全神話」など世の中に存在しないことを肝に銘じて、後進に教えを伝えて参る所存である。



メッセージ|エッセイ「生季」